メルマガ83

「森の駅発」メルマガ 第83号

★ 第24回森の駅発市民フォーラム報告
テーマ:国産材利用の現状と今後の展開方向
講 師:小島孝文氏(林野庁 木材産業課課長)

★6月の活動報告
★ 天然の木材による住まいは「健康の泉」

*市民フォーラム開催内容報告のため、好評連載中の山小屋通信はお休み致します。
                                      
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第24回森の駅発市民フォーラム報告
日 時:2016年6月2日(木)18:30~21:00
会 場:ベニーレ・ベニーレ(渋谷区神宮前4-31-10 YMスクエア6F)
講 師:小島孝文氏(林野庁 木材産業課課長)
テーマ:国産材利用の現状と今後の展開方向

去る6月2日の夕刻、かねてからのご案内に従い林野庁から小島課長をお迎えし、
国産材利用の現状と今後の展開方向について講演、その後活発な質疑応答の時を持ちました。
この号では、簡単ではありますが、講演の配布資料と口述筆記をもとにご報告致します。

講演内容

小島氏はパワーポイント(スライド)を使用し、豊富なカラー図版を用いられて講演。
多岐にわたる内容と膨大な資料でしたが、聴講者の理解促進にとのご配慮でしょう、
次の分かりやすい見出しがありました。
ヴォリュームのある内容ですので、今回は前半の内容について紹介、後半は次号と致します。
□ 国産材利用の現状と今後の展開方向について
□ 我が国のかつての「木の文化」、日本人の生活の中には木があふれていた
□ 木材利用の意義
□ 国内の森林資源は利用期
□ 我が国の人口推移の見直し
□ 木材需給の現状
□ 林業・木材産業の現状
□ 「林業成長産業化」のシナリオ
□ 国産材の安定供給体制が目指すところ
■ 木材需要創出・拡大におけるポイント
■ 国産材の需要構造
■ 階層別・構造別の平成25年度新設着工床面積
■ 公共建築物等の木造を巡る動き(戦後)
■ 都市の木質化に向けた新技術の開発・普及
■ 土木分野における国産材製品の活用
■ オリンピック・パラリンピック関連施設における木材の利用方法
■ 森林認証について
■ 「林業復活・地域創生を推進する国民会議」の活動と推進
■ 産業界における国産材需要拡大に向けた取組

□ 国産材利用の現状と今後の展開方向について
現在、林野庁では新しい国産材の利用を進めています。しかし国産材利用の最終需要者である
国民一人一人に林野庁の考えが伝わらないと施策は進んで行きません。
本日は、林野庁が今どういうことをやろうとしているかをご説明致しますので、
皆様方にご理解を頂きたいと思っています。
説明時間は30分程、そのあと意見交換と聞いていますので、
簡単な説明になるかと思いますが、意見交換の時間の中で色々とご質問頂きたいと思います。

□ 我が国のかつての「木の文化」、日本人の生活の中には木があふれていた
我が国はかつて「木の文化」の国と言われました。百数十年前までは家、城郭、寺社、橋、
土木工事などあらゆるところで木がたくさん使われ、身近な生活用品も木を使ってきました。
しかし、特に平成になってから、生活の身の周りから木材が使われなくなった。
TVのお茶の間ドラマの、昭和の家族団欒に見られる畳の部屋、卓袱台、
襖や木製建具などの光景も最近は見られなくなりました。
もう一度、身の廻りに木を使ってゆく取組みを進めて行かなければいけないと考えています。

□ 木材利用の意義
木材利用の意義は、まず木材は湿度を調整するなど快適的な居住環境を提供し、
使っている人に優しい。また木材を使うことで大気中の炭素を固定し地球環境にも良い。
木材製品は他の鉄・プラスチックなどに比べて製造・加工に要するエネルギーも少ない。
石油製品を買えば金は海外に流出するが国産材を使えば金は国内で廻り地方創生に役立つ。
木材は再生可能な資源であり「伐って、使って、又植える」というサイクルを通して、
森林整備が行え、自然環境を守ることができるなど木材利用の意義は大きい。
こうした木材利用の意義を皆さまに理解いただき、国産材の利用を進めて行きたい訳です。

□ 国内の森林資源は利用期
日本の森林の現状は、国土面積の3780万haの7割が森林で、森林率で言えば世界第3位。
この森林の4割の1000万haがスギ、ヒノキ、カラマツの人工林です。
これは昭和30年代、石油・石炭の使用で炭焼き山が経済的価値を失い、
瓦屋根や金属葺屋根の普及で茅葺屋根の原料・茅を供給していた茅場も経済的意義を失う中、
当時高度経済成長、戦後の復興等で木材需要が急激に高まり、
国の発展とともにこれから木材需要が伸びるとの予測のもと、
薪炭林や茅場をスギ・ヒノキの人工林に変える拡大造林を進めた結果です。
拡大造林を始めて50~60年たった現在、人工林の利用期を迎えています。
一方地方創生の観点で見ると、昔の地方活性化は、都会から工場を地方に移転し製品を作り、
海外へも輸出することで地方に雇用を確保してきましたが、
グローバル経済の中、現在製造業が海外に移転する今、
地方に持続的産業を作って雇用を確保し、地方にある資源を使っていくことが重要です。
そのために第1次産業と観光(地方の生活に触れるような地方固有の文化に触れる観光)
を通して地方に産業を起こし、雇用を確保してゆくのが今現在の地方創生でありますが、
国土の7割を占めている森林を生かさない手はないのです。
人工林の齢級構成の昭和41年の齢級構成でもわかるように、戦中に木を使い切っており、
戦後は若い人工林がほとんどで、用材として使える木が無かった。
このため外国から安い木材を輸入しようと、昭和39年には丸太の関税を0にして、
木材の輸入自由化を行ってきた訳です。
しかし、最近(平成24年)の人工林の齢級構成を見ると、
9~11齢級(植えてから40~55年、1齢級:植えてから0~5年、2齢級:6~10年)
の立木が多く、柱材を取るのに使いどころの山が増えてきたことが分かります。
この資源を生かして、この人工林を宝の山に変えていくことができるのが、
地方創生の観点からも大きなポイントとなります。

□ 我が国の人口推移の見直し
日本は人口減少社会と言われるが、人口減少は均一に起こるのではなく、東京、名古屋、
大阪など都市部で増え、北海道、東北、山陰など地方で急激に人口が減っていきます。
限界集落どころか限界地域、人のいないノーマンズランドができてしまうのです。
そうならないために地方創生が重要で、そうしたところに産業を育成し、
雇用を維持してゆかなければなりません。
多くの山間地では、人工林を活用してゆくのがもっとも確実な方策の一つです。

□ 木材需給の現状
木材供給量全体を表す棒グラフの示す通り、木材需要は年々減少傾向です。
人口減もあり長期的には減少する。一方国産材の自給率を表す折れ線グラフを見ると、
平成14年を底に右肩上がりに反転しています(人工林資源の利用期とも関連するが)。
昨年平成26年は30%を越えました。
しかし裏を返せば、まだ7割も輸入材に占められているということです。
昭和30年代、国産材はほぼ100%でしたが、だんだんと伐る木が無くなる一方で、
需要が伸びて来るなか、補完的に輸入材で賄おうとやって来ましたが、
いつの間にかマーケットを輸入材に取られてしまったのが木材の現況です。
しかし輸入材のマーケットの所は、新たな需要開発、技術開発をすることなく
国産材で取り返すことができるのです。
それができれば、全体の木材需要は少なくなってきたとしても、
まだまだ国産材の供給量を増やしていくことができます。

□ 林業・木材産業の現状
*国産材の供給量は、平成20年から26年の6年間で2割増した。
*林業の労働生産性は、主伐(山を全部伐って植え替える)で35%増、
 間伐(植えた木を良好に育てるために間引きする)で26%増。
 今時の日本の製造業で、僅か6年間で生産性が2割、3割アップするところなどありません。
 一般の製造業では機械化・合理化が進み、乾いた雑巾を絞るように合理化努力をしているが、
 残念なことに林業の場合、合理化が遅れているため、たっぷり水を含んだ状態なのです。
 ギュと縛ればこの程度はアップするという状態です。
 アップ率は欧米との数字に比べて、これからまだまだ伸びると考えています。
*林業従事者数は全体に下げ止まり状態、しかし中身は高齢者が減り若年者が増加しています。
 緑の雇用の効果も効いて、若年者が林業界に入ってきています。
※緑の雇用:若年者は経験がなく最初足手まといとなる為、林業経営者は余裕がないと
若年者を雇いたがらない。そのままだと高齢化し、林業の担い手がいなくなるので若年
者の半人前分を国が3年間負担し雇用してもらい3年間で1人前に育ててもらう制度。
* 国内工場での国産材の使用割合では、
製材、合板それぞれ国産材丸太の使用割合が、1割2割と増加しています。
* 木材産業企業の収益性は、5.5倍。
これは平成20年がリーマンショックで、林業企業の状態が極端に悪かったためであり、
通常状態から見れば、1割増ほどです
木材自給率も上がり、全体的には明るい兆候ですが、個々の企業で見ると、
すべてが明るい兆候というわけではなく、勝ち組と負け組が出てきています。
勝ち組には先へ先へとどんどん走ってもらい、
負け組でも頑張る人たちを伸ばしていくことで、全体の底上げになると考えています。

□ 「林業成長産業化」のシナリオ
以前は、農林水産省の中での重要な位置づけにとどまり、
国全体で重要位置づけはされていなかった「林業成長産業化」です。しかし、最近では、
「成長戦略改訂2015」「骨太の基本方針2015」「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」
「国土強靭化基本計画」など、国の重要政策のなかにも位置づけられてきております。
このように、いまや木材産業を成長産業化とみなしてゆくのは、林業分野のみならず、
国の重要施策の一つとして位置づけられるようになってきています。
「林業の成長産業化」をし「産業と雇用の創出」をはかり「地方創生」につなげて行く。
そのためにすることが「木材需要の創出」であり「国産材の安定供給」です。
「木材需要の創出」については残念ながら減ってしまう見通しですが、
「国産材の安定供給」については、品質・価格もさることながら、
マーケットを外材に取られた原因としての製品供給の安定性に問題があり、
それを改善していくことが必要となります。

□ 国産材の安定供給体制が目指すところ
国産材の安定供給のためには、川上・川中・川下というサプライチェーンの中において、
誰かが儲かるのではなく、サプライチェーン全体で儲け、川上・川中・川下がすべて、
ウィン・ウィン(Win- Win/互いに満足出来る状態の意味)の関係を作って行く。
そうすることで、木材産業、林業を、循環的な産業にして行くことができるのです。
      
次の号では後半の内容を報告致します。以下は後半内容の見出しです。お楽しみに。
■ 木材需要創出・拡大におけるポイント
■ 国産材の需要構造
■ 階層別・構造別の平成25年度新設着工床面積
■ 公共建築物等の木造を巡る動き(戦後)
■ 都市の木質化に向けた新技術の開発・普及
■ 土木分野における国産材製品の活用
■ オリンピック・パラリンピック関連施設における木材の利用方法
■ 森林認証について
■ 「林業復活・地域創生を推進する国民会議」の活動と推進
■ 産業界における国産材需要拡大に向けた取組

作成に当たり、講演記録テープから書きおこされた当会杉山顕一氏のご協力のもとに、
氏の口述筆記から、編集部でメルマガのスペースに合わせて整理編集、一部を割愛致しました。ご了解下さい。
 
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★森の駅推進協議会6月活動報告
6月2日 第24回市民フォーラム
6月20日 健康住宅研究会6月例会
6月22日 幹事会【住宅研究会、市民フォーラム、里山、事業、メルマガ部会報告・協議】
6月22日 27年度総会【代表挨拶、活動経過報告、会計報告、懇談会、副代表挨拶、ほか】
(詳細については各担当幹事にお問い合わせ下さい。)

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天然の木材による住まいは「健康の泉」
住まいは消耗品か「資産」か?
従来は資産であった住まいが、消耗品になったのは戦後のことです。
現在、新築している家の多くが耐久性20年、税制で25年の消耗品になっています。
自動車の価額の約5−8倍の消耗品に過ぎません。
そのようなことを繰り返して良いのでしょうか。
道路や街を掘り起こしては埋めて…を繰り返し、
更に家を建てては壊しを繰り返してGDPを高めた時代、それは終わったのです。
資産になるような健康な家を考えましょう。
それは、やがて日本の森を元気にします。