メルマガ121

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「森の駅発」メルマガ NO.121 2019 September
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★ 隈研吾教授 最終連続講義 工業化社会の後に来るもの 第5回 受講レポート 戸田 吉彦
 「緑と建築」
★ 山小屋通信 大森 明
 「左利きと道具 - 2 工作や絵画の道具」
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隈研吾教授最終連続講義 工業化社会の後に来るもの 第5回 受講レポート
「緑と建築」                戸田 吉彦

国立新競技場の設計で知られる建築家隈研吾東大教授の最終連続講義5回目(8月31日17時~
於:安田講堂)テーマ「緑と建築」に出席しましたので、以下報告致します。

連続講義は全10回。毎回ゲストを迎え、ゲストの講演、隈教授とゲストとの対談・鼎談で構成。
毎回異なるテーマに合わせて、建築界だけでなく社会学者や美術評論家ら多岐にわたるゲストが
顔ぶれを変えて登場、建築の広範な魅力や可能性を受講生や聴講生に伝える意図と思われる。

この日は、進士五十八氏(造園学者、福井県立大学学長)並びに 涌井史郎(雅之)氏(造園家、
東京都市大学特別教授)をゲストに迎えて隈研吾氏(建築家、東京大学教授)から挨拶。

隈氏はかねてより地方で死材となっているその地の木材を活かして建築をする事で知られるが、
一方著書も多、「負ける建築」では、今まで成功の証として建てられてきた建築が、大災害時に
は復興の邪魔にさえなる我々の体験を指摘し、自然の前に謙虚な建築をと主張して来た。自然と
調和する設計は海外の評判も高く、アジア・欧米で多数のプロジェクトが常に進行中である。

先ず隈氏より進士氏の紹介。進士氏が東京農大学長の時に、食と農の博物館の設計を依頼され、
風化する建物にして欲しいと前代未聞の条件を言われたエピソードを紹介。時間と共に変化する
のがこの世界の普遍性。時間と共に変化することに価値を置くか否か。明治以降の日本は時間と
共に変化することには価値がないと、疑いを持たずに邁進して来た。しかし古来日本建築は時間
と共に変化し、そこには完成直後にはない美しさがあり今も美しいという指摘。

進士氏は福井大学長赴任以来参道整備に携わる地元名刹永平寺(1244年創建)を写真紹介、
海外と日本の庭園(造園)思想の違い、日本庭園の歴史を紹介。古代の日本の庭は、木や石に
手を加えずそのまま崇める神社境内から始まり、以後、仏教思想や武士文化、茶道の影響。
作庭・造園の要は自然に順う事、農業とは切り離せない事を、皇室行事はじめ、鎮守の森、
江戸時代の三富新田を例に挙げて説明。近代以降は故郷の風景を再現する傾向にあるとの事。

涌井氏は、自然破壊の歴史にあった西洋文明が、今や COP21やパリ合意に代表されるように、
意識は完全に環境保護へシフトチェンジ、経済原理の日本の意識の遅れを海外は懸念したが、
京都で日本が紹介した先人の知恵「里山」システムは日本への認識を一変させたと紹介。
以来社会生態学的ランドスケープとして、SATOYAMA は世界共通語になったと説明。
これから建築に携わる者たちへ、スケールの大きい視野を求めた。

鼎談では、ポートランド日本庭園のリニューアル工事とカルチュラルヴィレッジが話題に。
世界最高の日本庭園と言われるポートランドの日本庭園。リニューアルに携わった隈氏から
アメリカの広大な森林の中における造園の妙や手入れに関する発見が指摘され、緑とは、
日本庭園とは、そしてランドスケープとは何かにそれぞれの見識と経験談が披露された。

涌井氏の撫育の説明から発展、造園家は毎日手を入れているが、どの時点で完成ですか?との
隈氏の質問に、造園に完成はなく、言葉もなく、概ねなる意味で概成を使うと二人から返答。
一方、建築の木は死んでいるが造園の木は生きていると進士氏の発言に、樹木は伐採され木材
となっても人体に健康な成分を発生する一方、反ったり割れたりもして生きていると隈氏。
互いに訂正し益する処多々あったと最後に口々に語られ、濃い2時間余が締めくくられた。

結び。エージングは劣化ではなく、持続的未来へのメッセージである。

終了後、古い物を大事にする思想は欧州にもあったが、20世紀の科学技術の発展と階級闘争が
新しさ若さの価値ばかりに重きを置くようになったと考察。昨今は老化の劣化面だけを捉えて
高齢化社会の暗い未来のみ語られますが、歳をとる価値について考えさせられました。

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山小屋通信 大森 明
「左利きと道具-2 工作や絵画の道具」

今回は左利きと工作や絵画の道具について述べたい。
まず工作の道具では使用頻度が高いハサミ・カッターナイフ・小刀。
右利き用が多く出回っているが、これを左手に持つとやはり使いづらい。

ご存じの方もおられるかもしれないが、ハサミは切断面が見づらいし、カッターナイフは刃の
出し入れ調整ツマミが手のひら側に来て、作業途中の刃の出し入れ調整がしづらい。
小刀については、木を削ろうとして持ち方や姿勢を変えているうちに気がつくと、
武士の切腹のような態勢になっていることもある。
工作で腹を切っては不本意だし、ストレスが溜まるのも避けたい。
大人になってやっと全て左利き用に切り替え、以来、工作をすることがぐんと楽しくなった。

一方、絵画の道具には不自由さを感じない。
パレットは確かに指にはめて持つ場合は右利き用だと使いづらいが、
何が何でも手で持ちたいものでもなく、置いて使えば問題ない。
話がそれて恐縮だが、むしろ絵画に関しては「左利きの証」が絵に残るので嬉しくさえある。

例えばデッサンで物体の影をたくさんの斜線を引いて表現することが多いが、
左手で描く場合は左上から右斜め下方向へ下がる斜線が引きやすい。
左利き説が有力なレオナルド・ダ・ビンチのデッサンにも、
その方向に引かれた斜線がたくさん見られる。

そして当方のデッサンもそうなっている。
そして、レオナルドダビンチと同じだ!ということで、
左利きであることがちょっぴり嬉しくなる、という訳だ。

話を絵画の道具に戻すと、直接描くツールというわけではないが、写生時に活躍してくれる
デジカメが若干使いにくいと感じる時がある。
いつも風景を写生した後にその風景を撮影しておくようにしているのだが、
デジカメのシャッターボタンの位置が右手側にあるので、やむなく右手で押すことになる。
しかし本当は、利き腕の左手で押したい!と思いつつ我慢している。

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編集後記

9月は房総半島を直撃し大きな被害をもたらした台風15号の爪痕が今もまだ生々しく、復旧の
目処が未だ立たない所も多々あると言われます。 当会会員幹事の方からも直接被害に遭われ、
一週間以上停電生活に耐えられたと伺いました。今も倒木整理の作業に当たられています。
被害に遭われた方々の一日も早い回復を祈念しております。
またこの原稿を書いている21日現在、台風17号が沖縄、九州にとの報道が流れています。
いつ何処を襲うかわからぬ台風や地震、その備え、警戒心を、各自治体・企業・団体、各家庭、
各個人が共有し保持する大切さを痛感します。このメルマガは、毎月一回の月末発行ですが、
自然災害に遭われた報告や、情報共有にお役立ていただけるのであればどうぞご利用下さい。
 ご投稿先:todayofmac@icloud.com
日本だけでなく、世界各地から暴風雨の被害が報告され、地球規模の異常気象と言われる近年、
自然の恵みにあずかるだけでなく、自然への畏怖の念の必要をあらためて覚えます。

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