木の家の科学、屋内環境での健康を考える

第22回森の駅市民フォーラムより、講演録

講演テーマ:「木の家の科学、屋内環境での健康(元気)を宣言」
講師:九州大学 農学研究院 森林圏環境資源科学研究室 准教授 清水邦義様
場所:渋谷区神宮前「ベニーレ・ベニーレ」6Fホール
日時:2015年9月8日 18:30~21:00

講演内容:
「木は良い」ということはよく耳にするが、
これをデータできちんとまとめた文書は少なく、
科学的な究明の必要性を感じていた。

今までも有馬先生や谷田貝先生が取り組んでおられる問題ではあるが、
木の香りや機能が人にどんな効能を及ぼしているかを科学的にデータに基づいて
きっちりとまとめて、木の家が良いのだと主張する学術論文はまだ無い。
木の家が気持ちよいということを人間は感覚的にわかっている。
これをデータで裏付けるべく今回は二重盲検法
(薬品の臨床実験で使われる方法)を応用して実験を行うこととした。

具体的には「本物の木の家」と「偽物の木の家」の2つで実験するというもので、
今まで他の機関等で行われてきたような
木の家とコンクリートの家との比較などとは異なる。
木とコンクリートの比較では違いが出すぎる等の問題があり、
今回の実験によって木の家がどれだけ良いものなのかを把握したかった。
このため、木の家は国産材の無垢の木で造り、偽物の木の家については、
新建材に木目模様の壁紙を貼った一見すると木の家のように見えるものとした。
(柱は両者とも無垢の木)
国産材の無垢の木を使った訳は、日本の林業を守り、地域材を使い、
新たな需要を生み出したい、ということをコンセプトとしたことに拠る。

わが国の林業の現状に触れると、
中小の製材所は自然または低温乾燥した木材を供給し、
大規模製材所は機械による高温乾燥した木材を供給するという構図である。
大規模製材所のほうが大量生産によりコストが抑えられ、普及しやすいが、
自然乾燥もしくは低温乾燥の木のほうが本来の木の香りが残せるなど
メリットがある。このメリットを科学的に実証し、提示していきたい。

アカデミアだけでは、このような大がかりな研究を遂行することは難しく、
林野庁の支援の下、(株)トライウッドや(株)安成工務店などの
民間の協力も得て、産学官の密接な連携により実現している。
アカデミアは九州大学を中心に近畿大学、福岡女子大学と連携、研究分野も農学、
医学、脳科学、認知心理学、分析化学と多岐にわたる学際的研究となっている。

木の住宅に対する消費者ニーズには、
①耐震性や品質・性能、②健康への配慮、の2つがあるが、
① は従来から数値化・データ化されて対応済みであるのに対し、
②はデータ化さえも不十分である。
今回の実験は、津江杉の無垢材棟と、新建材棟で同じ実験をしてどれだけ違うか、
人にどんな影響を及ぼしているか等を見るというもので、
検証項目は以下の5点とした。
無垢材棟と新建材棟における、
1. 作業時の心と身体の状態
2. 睡眠時の心と身体の状態
3. 主観的な印象
4. 香り成分と量
5. ハウスダストの量   

2つの実験棟は同じ条件になるように、できるだけ近づけて設置した。
内装の材料は異なるが同じ見た目になるように仕上げ、
実験スタッフは木材に思い入れや利害関係のない人を配した。
【補足】
無垢材棟の構造:床/15mmの無垢杉材、
壁・天井/12mmの無垢杉材、土台・柱・梁/無垢杉材。
新建材棟の構造:床/特殊MDF・表面UV塗装、
壁・天井/パーティクルボード下地・ビニールクロス貼り。

実験は、男女別、さらに男女それぞれ年齢世代別に分けて行った。
また、季節を変えて3年にわたり実験を行った(梅雨時期、夏、冬など)。
実験の内容と結果を具体的に追ってみましょう。

平成25年の実験成果
「日中認知課題実験(男性)」で脳波・心電図をとり、
所定のデスクワーク課題をこなすと人間はどれだけ集中できるかを見た。
(休む→課題をやる→休む、を繰り返す)
この結果、無垢材棟のほうが課題中の疲労が少なく、
集中力も高いという結果が出た。
この年度のもう1つの実験=「夜間睡眠実験(男性)」では、
まず室温・湿度の変化と眠りの関連を調べた。
この実験は春季に行ったが、無垢材棟のほうが夜間の湿度が低くなり、
春の眠りに適しているという結果が出た。
また、無垢材棟のほうはレム睡眠(浅い眠り)が短くて、
段階3睡眠(深い眠り)が長く、睡眠の質が高いというデータも出た。

平成26年度の実験成果
男女別・年齢世代別に実験棟への滞在後に、
気分がどうかのアンケートをとった結果、
男性はどの年齢世代にも著しい差異は見られなかったが、
女性は多くの年齢世代で気分の差異がみられた。
女性は70%弱の人が無垢材棟のほうがよいと感じ、
敏感に木の家の良さを感じていると言える。
一方、男性は無垢材がよい人と新建材棟がよい人がほぼ半々で、
いわば男性は「どちらでもよい」ということであろうか。

= アンケート結果“どちらの棟がよかったか” =
               男      女
      無垢材棟    47%    67%  

      新建材棟    53%    33%

平成27年度の実験成果
平成26年度の結果を受けて、「夜間睡眠実験」を女性で実施した。
具体的には、温度湿度の調査、肌質の調査、主観的評価である。
このほかに「揮発性成分の調査」、「ハウスダストの調査」を行った。
「夜間睡眠実験」は梅雨期に行ったが、無垢材棟も新建材棟も、
肌質の調査ではあまり差異がみられなかったが、肌の弾力面で違いが観察された。
また、温度は差異が出なかったが、
湿度に関しては無垢材棟のほうの調湿機能が高いというデータが出た。
そして、実験に参加した女性に睡眠前と後の印象を聞くと、
無垢材棟のほうがよい印象をもったという結果になった。
「揮発性成分の調査」については、香り成分とその量について調査した結果、
両方の棟ともに柱がスギの無垢材のためか、香り成分が出ている。ただ、
無垢材棟のほうが圧倒的に香り成分の量が多いという結果が出た(3倍以上)。
肌質については引き続き調査が必要であるし、
揮発性成分についても築年数が経た場合どうなるのか等、
引き続き調査が必要といえるが、
木の香りと木の調湿作用が睡眠に良い影響を与えるのは確かなようである。
「ハウスダストの調査」については、自然落下菌試験を行い、
培養後の状況を比較したところ、
無垢材棟のほうのカビやバクテリアが少ないという結果になった。
木には菌の増殖を抑える作用があり、さらに前述の調湿作用も含めて
多面的な作用によって、菌の増殖を抑えていると考えられる。

まとめ
以上、無垢材の家において睡眠の質が向上するということは、
脳波からわかるだけでなく、主観的に感じられている。
無垢材の家における睡眠が肌質にも良い影響を与えていることも示唆された。
また、データ的にも無垢材の家は豊かな香りを持っていて、
ハウスダストを抑制する力を有していると考えられる。
実験では、男性は無垢材棟・新建材棟のどちらが優位と感じることがなく、
女性は無垢材棟の優位性がわかるという傾向が出ている。
男性は「鈍く」、女性は「敏感に違いが判る」、ということであろうか。
一方、季節を通じた睡眠実験の実施や、
季節ごとのハウスダストの量・揮発成分の量の調査も引き続き必要と考えられる。
最後になるが、無垢材の良さを若い人が経験する機会が
昔に比べて減っているのも問題だといえる。
たとえば集成材でも本物の木だと考えてしまうなど。
若い人に対する「木育」が非常に重要であると考える。