ウチニワの家

 ウチニワの家(出雲)の紹介    
                  
1、建物の概要について

この建物は、木造2階建て43坪の戸建て住宅です。
1階は、玄関とLDKの間に、土間キッチンがあり、2階の共有スペースと吹抜け空間でつながっています。

1階は、寝室・ウオークインクローゼット・キッチン・浴室など水廻りをそろえたコンパクトな動線のプランとなっています。
また、浴室とキッチンは、南に面した屋外との間に軒下空間をもうけています。

1階平面図

2階は、書斎や子供室など個室の他、南面大開口のあるサンスペースや、デスクコーナーなど共有スペースになっています。
木製階段のある吹抜け土間キッチン部分が、家族の共有空間(ウチニワ)となるよう設計をしています。

2階平面図


2、設計内容の紹介
弊社の設計スタイルは、夫婦2名の設計者で、建て主ご夫婦と共に、4人で詳細に打合せを重ねてつくり込んでいくものです。
そこでは、建て主の生活習慣や原風景、要望を伺いながら、図面や模型などを用いて詳細設計をすすめます。
ウチニワの家(出雲)の場合も同じです。
そこで展開しました8つのスペースの具体的なしつらえを、計画の背景や打合せのエピソード等をまじえてご紹介します。

1) サンスペース

サンスペース写真

このサンスペースには、ハンモックを吊ってありますが、布団や洗濯物など
物干しの予備スペースにもなっています。

この吹抜け空間は、10年前につくった出雲の別の住宅(富の家)が原型です。

富の家/吹抜け写真
 
出雲地方は、西風がつよい場所です。
大陸からの風にのって日本海の湿った空気がはいり、中国山脈にあたる為  
晴れ間が少なく、天気は曇りがちです。
「雲イズル国」といわれる所以なのでしょうが、日照がすくないため、
南側に面した物干し空間を要望されることが多いのです。

2)ウオークインクローゼット

ウオ—クインクロ—ゼットの写真
  
この空間は、いわゆる着替え部屋です。  
ご夫婦とお子様4人は、日ごろ、それぞれに忙しい時間をすごしていました。
そこで、外から帰って来た家族は、個々に、ここで部屋着に着替えて、室内に入ります。
洋服は、各種35個のスチールカゴや、全長3m衣紋掛けや棚に収納する場所です。出かける時も、ここで外着に着替えていきます。
洗濯場のある水廻りもこの近くです。
  
3)土間キッチン

土間キッチンの写真
  
設計初期の打合せで、奥様からのこんなお話がありました。
「田舎の実家に土間のある台所があった。そこでは、畑からとってきた野菜が土のついたまま水場の下においてあった。
春には、土間のかまどで竹の子を茹でていた。
茹でるとアクがでるので、土間の方が水洗い出来て始末がよかった。
また、隣人がちょっと来られた際、きさくに土間キッチンでお茶が出せるとよい。」
出雲地方では、抹茶や煎茶を飲む習慣があり、和菓子づくりも盛んな地域です。
玄関に面した土間キッチンで、気持ちよく茶飲み話をしてもらうようなシーンをイメージしました。

4)屋内物干し場 

屋内物干し場の写真

ご主人は、のどを使うお仕事をされている方でして、昨今のスギ花粉症に悩まされて困っておられました。
洗濯して乾いた衣類に花粉が付着していると、むせ込んでしまうことも少なくないと伺いました。
そこで、南面に配置した1階浴室洗濯室に接する位置に、屋内型の物干し場をつくりました。
さらに、この場所は、畑仕事から泥を引きずって帰って来た時の中間室としても使ってもらっています。

5)コンパクトなキッチン(LDK)

LDKの写真
 
もともと使われていたキッチンは、大きな対面式のシステムキッチンでした。
収納スペースは、ふんだんにあり、カップボードなどもある立派なものでしたが、奥様からは、キッチン内での移動距離も長く、収納も無駄に広いため、整理もしにくいという話をされました 
 
そこで、対面式でも、ダイニング側の吊戸はもうけず、家電ラックに家電を集約し、回転して手のとどく範囲で調理器具が持ち運びできるようしつらえています。  

キッチンは住まいにおいて、第一の指令塔です。
使う方の身長や動作に合わせてオリジナルなしつらえの提案を設計していきます。

6)アウトドアリビング

南面デッキの写真

この住宅は、隣接する母屋の離れとしてつくられたものです。
そのため、干渉帯としての庭先のしつらえが必要になりました。
そこで、植栽を植え込むことに加え、木製デッキスペースをつくりました。
このデッキスペースは、屋内のLDKに面した配置になっており、屋内のリビングを延長したアウトドアリビングです。
庭木が成長してくれば、木漏れ日がここちよい場所になることをイメージしています。

7)書斎部屋

書斎の写真

土間キッチンのある吹抜け上に、一坪の書斎をつくりました。
ここは、奥様の仕事部屋兼、趣味室です。
配置は吹抜けに面し、建物全体が把握できる位置で、住まいの第二の司令塔のような場所になりました。
2階ですので、4人の子供部屋からも近い部屋になっています。 

8)子供部屋

子供室の写真

20才以上の社会人から、小学生まで、4名のお子さんがいらっしゃいますが、先年も大学生の息子さんが、遠方で1人暮らしをはじめられました。
家族構成が変わると、子供部屋(個室)は、時に子ども家族の帰省部屋や収納部屋などに変貌していきます。
そのようなことを想定し、4つに間仕切りせず、2室を棚だけで2分して4室としました。

これらの8つのスペースは、長く使ってもらうための住まいの空間提案です。


3、住み継がれる家をつくるために 
戦後からこれまで、日本の住まいは、経済成長という後ろ盾によって、30年程度でスクラップ&ビルトされてきました。
しかし、これからは少子高齢化の時代で、経済縮小社会が控えています。
今ある住まいは、容易に壊せない時代がやってくると言われています。
リフォームやリノベーションが注目される時代の到来です。

一方、これから住まいを新築される方においては、住まいに愛着や自信をもって住んでもらうことが不可欠と考えます。
そのためには、いままでの生活習慣や要望を我々にお話いただき、さまざまな観点から打合せを重ねていく必要があると思います。
住まいの完成イメージについて、設計段階で確認を重ねておけば、実際の施工に入っても違和感が少ないものです。
おって、施工段階でも現場では、仕上げの再確認作業を行います。
もっとも、設計段階で打合せを重ねていた住まいであれば、愛着をもって長く使いつづけてもらえるものと考えています。

それらの住まいが、家人の歴史を刻み、使い込まれていくことによって、価値ある良い木造住宅が、ひとつでも住み継がれる建築となって継承されていってほしいと考えています。


森の駅発 健康住宅研究会
一級建築士事務所小野育代建築設計事務所 
       小野 雅之